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【農家必見】4大果樹(梨・リンゴ・桃・みかん)の高温対策|品質と収量を守るバイオスティミュラントの選び方と使い方

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「また今年も暑い…」「このままだと果実の品質が…」

近年、夏の記録的な猛暑は全国の果樹農家の皆様にとって、収量と品質を左右する深刻な問題となっています。

地球温暖化の影響で、もはや異常高温は「異常」ではなくなりつつあります。

日焼け果、糖度低下、着色不良、生理障害——。

高温による被害は多岐にわたり、丹精込めて育てた果実の市場価値を大きく下げてしまいます。

従来の対策だけでは追いつかない、そんな厳しい状況に頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、日本の主要果樹である梨、リンゴ、桃、みかんを対象に、今日から実践できる高温障害対策を徹底解説します。

さらに、植物が本来持つ力を引き出し、ストレス耐性を高めるとして注目されている「バイオスティミュラント」の活用法まで、最新の研究や具体的な製品例を交えて詳しくご紹介します。

この記事を読めば、厳しい夏を乗り越え、高品質な果実を安定生産するための具体的なヒントがきっと見つかります。

目次

なぜ高温は果樹にダメージを与えるのか?

対策を考える前に、まずは高温が果樹にどのような影響を与えるのかを理解しましょう。主な障害は以下の通りです。

  • 日焼け・煮え果:強すぎる日差しと高温で果実の表面や内部が焼けてしまい、変色・組織の壊死を引き起こします。
  • 着色不良:リンゴやブドウなど、夜温が下がらないと色付きが進まない品目で、アントシアニンの生成が阻害されます。
  • 糖度低下・酸過多:高温で夜間の呼吸量が増え、果実が蓄えた糖を消耗してしまいます。また、クエン酸などの分解も進まず、味がぼやけたり、酸っぱさが抜けなかったりします。
  • 生理障害:果肉の内部褐変や水浸状、コルク化など、外から見えない品質低下が起こります。これは、高温や乾燥による養分の吸収阻害(特にカルシウム)などが原因です。
  • 樹勢の低下:人間が夏バテするように、果樹も高温と乾燥で光合成能力が落ち、樹全体が弱ってしまいます。これが収量減少や翌年の生育にも影響します。

これらの障害は、果樹の種類や品種によって現れ方が異なります。次に、果樹ごとの具体的な対策を見ていきましょう。

【果樹別】高温障害の傾向と具体的な対策

梨(日本ナシ)の高温障害と対策

主な被害:直射日光による日焼け果や煮え果。品種「あきづき」などで見られる内部褐変(コルク障害)。

【対策のポイント】

日除けと水分管理が基本

  • 剪定・摘果の工夫:新梢や葉を多めに残して、果実に直射日光が当たらない「葉の傘」を作ります。日差しが強い南西側の果実や上向きの果実は避け、葉陰の下向き果を残すのがコツです。
  • 適切なか​ん水:土壌の乾燥は日焼けや内部障害を助長します。梅雨明け後や猛暑が続く場合は、夕方の涼しい時間帯に5〜7日に1回程度、たっぷりと水を与え、樹の水分ストレスをなくしましょう。

物理的な遮光

  • 遮光ネット(寒冷紗):園地の南西側や特に日差しが強い場所に遮光ネットを張ることで、午後の強烈な西日を和らげ、日焼け果を大幅に減らせます。
  • 果実袋の活用:無袋栽培よりも有袋栽培の方が日焼けは確実に減ります。猛暑が予想される年は、収穫ギリギリまで袋を外さない工夫が有効です。

バイオスティミュラントの活用

猛暑で根が傷むと、水分やカルシウムの吸収が滞り、内部障害につながります。アミノ酸系や微生物(菌根菌)系の資材を土壌に潅注することで、根の張りを良くし、猛暑下でも養水分をしっかり吸い上げる力をサポートします。これにより、樹勢の維持と生理障害の軽減が期待できます。

リンゴの高温障害と対策

主な被害:果皮が褐色になる日焼け果、赤色品種の着色不良、果肉が柔らかくなる軟化や貯蔵性の低下。

【対策のポイント】

「天然のパラソル」で果実を守る

  • 徒長枝の活用:夏場に伸びる徒長枝を全て切り取るのではなく、主枝の上部など西日が当たりやすい場所では30cmほど残して剪定します。この枝葉が天然のパラソルとなり、直下の果実を日焼けから守ります。

温度を下げる工夫

  • 白色反射シート:従来のシルバーシートは地温を上げる傾向がありましたが、近年主流の白色シート(タイベック等)は、光を反射して着色を促進しつつ、地表面の温度上昇を抑える効果があります。
  • カルシウム剤の葉面散布:果実の細胞壁を強くするカルシウムを散布することで、果肉の軟化を抑制し、貯蔵性を高める効果が期待できます。
  • 先進技術(細霧冷房):初期投資はかかりますが、ミストを噴霧して気化熱で園全体の温度を下げる細霧冷房は、日焼けや着色不良対策として非常に効果的です。

バイオスティミュラントの活用

高温による光合成能力の低下は、糖度不足や着色不良に直結します。海藻エキスや糖類を含む資材を葉面散布することで、光合成を補助し、樹のエネルギー消耗を補うことができます。「夏バテ」状態の樹に栄養ドリンクを与えるイメージです。これにより、着色期まで樹勢を維持し、品質向上を後押しします。

桃の高温障害と対策

主な被害:果肉が赤や褐色に変色する「赤肉症」「水浸状果肉褐変症」といった内部障害。外から見えないため、産地のブランドイメージを損なう深刻な問題です。

【対策のポイント】

岡山県で開発された「4つの統合技術」

高温多雨条件で高品質な白桃を守るため、岡山県で開発された総合対策が非常に参考になります。

  1. 機能性果実袋:酸化チタンを塗布し、赤外線を反射して袋内の温度上昇を抑える特殊な袋。内部障害を最大70%低減した実績があります。
  2. 部分マルチ敷設:透湿性のマルチで株元を覆い、大雨時の急激な水分吸収を防ぎ、水浸状の障害を軽減します。
  3. 基部優先着果法:枝の先端ではなく、障害が出にくい根元側の果実を優先的に残す摘果方法。
  4. エテホン剤の活用:成熟を促進させ、高温障害が深刻化する前に収穫する技術。

収穫直前の管理

袋を外した直後の果実は非常にデリケートです。日中の暑い時間帯は避け、朝夕の涼しい時間に袋を外し、果実を直射日光に徐々に慣れさせることが重要です。

バイオスティミュラントの活用

桃の内部障害は、高温や水ストレスによる生理的な乱れが原因です。グリシンベタインやプロリンといったアミノ酸を含む資材は、植物細胞の浸透圧を調整し、細胞を保護する働きがあります。ストレスがかかる前に予防的に散布することで、樹自体のストレス耐性を高め、内部障害の発生しにくい健全な状態を保つ助けとなります。

みかん(温州ミカン)の高温障害と対策

主な被害:果皮と果肉の間に隙間ができる「浮皮(うきかわ)」。秋の高温による着色遅れ。

【対策のポイント】

ホルモン剤による化学的コントロール

浮皮対策として、ジベレリン(GA)とプロヒドロジャスモン(PDJ)の混用散布が和歌山県などで実用化されています。果皮の老化を抑制し、浮皮の発生を約半分に減らす効果が報告されています。ただし、着色を遅らせる副作用があるため、散布時期や濃度の調整が重要です。

品種の力で乗り越える

近年、高温多雨条件でも浮皮が発生しにくい優良な品種(例:’きゅうき”植美’など)の育成・選抜が進んでいます。長期的な視点では、自分の園地の気候に合った品種へ少しずつ更新していくことも有効な対策です。

バイオスティミュラントの活用

着色遅れは、高温による光合成不足と糖の消耗が原因です。リンゴと同様に、糖やアミノ酸、ミネラルをバランス良く含む資材を秋口に葉面散布することで、果実へのエネルギー供給を助け、スムーズな着色を促進します。また、海藻エキスは果皮を強くする効果も報告されており、浮皮の軽減にも貢献する可能性があります。

【深掘り解説】今、注目の切り札「バイオスティミュラント」とは?

ここからは、本記事の核となる「バイオスティミュラント(BS)」について、さらに深く掘り下げていきましょう。「名前は聞くけど、一体何なのかよく分からない」「本当に効果があるのか?」と感じている方も多いかもしれません。

バイオスティミュラントは、気候変動という大きな課題に立ち向かうための、いわば「植物の自己防衛力を鍛えるトレーナー」です。

正しく理解し、使いこなすことで、今までの対策に「プラスアルファ」の効果をもたらし、高温に負けない強靭な樹作りを可能にします。

そもそも、バイオスティミュラントとは?

まず、肥料や農薬との違いを明確にしておきましょう。

  • 肥料:植物に直接的な栄養分(窒素、リン酸、カリウムなど)を与え、体を大きくします。これは「食事」です。
  • 農薬:病気や害虫という明確な「敵」を直接攻撃・防除します。これは「医薬品」です。
  • バイオスティミュラント:植物自身の生理機能を活性化させ、ストレスに対する抵抗力や回復力を高めます。これは「サプリメント」や「漢方薬」、あるいは日々の「トレーニング」に例えられます。

猛暑、乾燥、塩害といった「非生物的ストレス」は、特定の病原菌のように農薬で叩ける相手ではありません。

だからこそ、植物自身が持つ「ストレスに耐える力」を内側から引き出すアプローチが、今、非常に重要になっているのです。

なぜ高温に効くのか?そのメカニズムを深掘り

バイオスティミュラントが「なぜ高温ストレスに効果があるのか」、その働きをもう少し科学的に見てみましょう。主に4つの重要なメカニズムが関わっています。

1. 細胞レベルでの保護(浸透圧の調整)

人間が暑いと汗をかいて水分を失うように、植物も高温下では細胞から水分が失われ、しおれてしまいます。特定のバイオスティミュラントに含まれるアミノ酸(グリシンベタインやプロリンなど)は、細胞内に蓄積することで「浸透圧」を高める働きをします。これにより、細胞内の水分を保持しやすくなり、高温や乾燥の環境でも細胞が正常な機能を維持できるよう、強力にサポートします。

2. 酸化ダメージの軽減(抗酸化作用)

植物は強い日差しや高温にさらされると、体内に「活性酸素」という有害物質を生成します。これは鉄がサビるのと同じように、細胞を傷つけ、老化や機能低下を引き起こす原因となります。バイオスティミュラント、特に海藻エキスなどに含まれる多様なビタミンやポリフェノール類は、この活性酸素を除去する「抗酸化作用」を持っています。いわば、植物の体内の「サビ止め」として働き、細胞の健康を守ります。

3. エネルギー不足の解消(光合成の補助)

高温は、植物がエネルギーを作り出す「光合成」の効率を著しく低下させます。これが「夏バテ」の正体です。光合成が滞ると、糖の生成が減り、果実の肥大や着色、食味に直接影響が出ます。一部のバイオスティミュラントは、糖やアミノ酸といったエネルギー源を葉から直接補給したり、光合成に関わる酵素の働きを助けたりすることで、樹のエネルギー切れを防ぎます。

4. 養水分吸収の土台強化(根系の活性化)

どんなに良い対策をしても、その効果を吸収する「根」が弱っていては意味がありません。高温や土壌の乾燥は、根に大きなダメージを与えます。腐植酸や微生物(菌根菌など)を含むバイオスティミュラントは、土壌の構造を改善して水持ちを良くしたり、根の伸長を促進したり、根の吸収範囲を広げたりする効果があります。これにより、樹全体の土台が強固になり、猛暑下でも水分や重要なミネラル(生理障害に関わるカルシウムなど)を効率よく吸収できるようになります。

【課題別】どのタイプの資材を選ぶべき?バイオスティミュラントの選び方

「自分の園地には、どんなバイオスティミュラントが合うんだろう?」という疑問にお答えします。

製品名ではなく、「成分の種類」と「園地の課題」で選ぶのが成功の秘訣です。

こんなお悩みには → 「樹全体が夏バテ気味。とにかく樹勢を維持したい」

選ぶべきタイプ:アミノ酸系、海藻エキス系

理由:これらの資材は、植物の代謝を総合的にサポートする成分(アミノ酸、ミネラル、ビタミンなど)をバランス良く含んでいます。人間で言えば「総合栄養ドリンク」や「マルチビタミン」のような存在。樹勢が落ち込みがちな梅雨明け後や、猛暑が続く時期に定期的に散布することで、樹の健康維持に貢献します。

こんなお悩みには → 「日焼けや内部褐変などの生理障害を、とにかく減らしたい」

選ぶべきタイプ:海藻エキス系、高機能なアミノ酸系

理由:果実の品質を直接守るには、細胞レベルでの保護が重要です。抗酸化物質を豊富に含む高品質な海藻エキスや、浸透圧調整機能が明記されているようなアミノ酸資材が適しています。これらは果実や葉を直接ストレスから守る「盾」のような役割を果たします。

こんなお悩みには → 「土壌が乾燥しやすく、水やりをしてもすぐ乾く。干ばつに強くしたい」

選ぶべきタイプ:腐植酸・フルボ酸系、微生物(菌根菌)資材

理由:これらは即効性よりも、土壌という「環境そのもの」を長期的に改善する資材です。腐植酸は土の保水力を高め、微生物は根の働きを助けて水分吸収能力を向上させます。根本的な体質改善を目指す場合に最適で、特に若木の定植時や、土壌改良と合わせて施用すると非常に効果的です。

こんなお悩みには → 「どうしても着色が悪い、糖度が上がらない」

選ぶべきタイプ:糖類・ビタミン類を含む資材

理由:果実が成熟する最終段階での「あと一押し」をサポートします。高温で光合成が落ち込み、糖の生産が追いつかない時に、葉面からエネルギー源を補給してあげることで、着色や糖の蓄積を助けます。収穫前の品質向上をピンポイントで狙う場合に有効です。

賢い使い方:効果を最大限に引き出す3つのポイント

1. 「予防的な散布」が鉄則

最重要ポイントです。バイオスティミュラントは、ダメージを受けてから使う「治療薬」ではなく、ダメージを受ける前に使う「ワクチン」です。天気予報を確認し、「猛暑が来る2〜3日前」に散布するのが最も効果的です。

2. 「適正な濃度」を守る

「たくさん使えばもっと効くはず」は間違いです。資材によっては、濃すぎると逆効果になる場合もあります。必ずメーカーが推奨する希釈倍率や使用量を守ってください。

3. 「基本技術との組み合わせ」で相乗効果を

バイオスティミュラントは魔法の薬ではありません。適切な土づくり、剪定、かん水といった日々の丁寧な栽培管理があってこそ、その真価が発揮されます。基本技術という土台の上に、バイオスティミュラントという「強力な一手」を上乗せするイメージで活用してください。

まとめ:総合的な対策で猛暑を乗り切る

地球温暖化が進む中、果樹栽培における高温対策は、もはや避けては通れない経営課題です。

重要なのは、「一つの対策に頼らない」ということです。

  1. 基本の徹底:適切な剪定、土づくり、かん水といった基本技術が全ての土台です。
  2. 物理的な防御:遮光ネットや品質の良い反射シート、機能性果実袋などを活用し、果樹を過酷な環境から物理的に守りましょう。
  3. 植物の自己防衛力を高める:そして、新たな一手としてバイオスティミュラントを活用し、植物の内側からストレスに立ち向かう力を引き出してあげましょう。

気候は年々厳しさを増していますが、新しい知識と技術を柔軟に取り入れ、それらを組み合わせることで、必ず道は拓けます。

本記事が、皆様が丹精込めて育てた果実を最高の品質でお客様に届けるための一助となれば幸いです。

今年の夏も、共に乗り越えていきましょう。

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この記事を書いた人

【プロフィール】

・出身: 1963年 大分県生まれ
・学歴: 国学院大学 卒業

【職務経歴】

・1987年: 株式会社日本実業出版社 入社
・1998年:西日本産業(株)にて主に九州管内で農業資材の開発、営業を担当。
・2009年: フリーの農業記者として食や農に関するイベント、放送番組等の
企画制作に携わる。
・2021年: ファームテック株式会社 代表取締役 就任

【主な役職・活動】

・2010年: 食農コンソーシアム大分(大分県内の若手農業者団体)代表
・2021年:大分県立久住高原農業高等学校 学校評議委員、マイスターハイスクールCEO

【研究・セミナー実績】

・共同研究:ユズ果皮が持つ抗アレルギー能と隔年結果の改善(2009年:大分大学)

・セミナー講師:

「農で生きる・農で生かす」(2012年:大分大学)
「昨今の農業ブームについて考える」(2014年:大分県農商工連携センター)

【メディア事業】

・ラジオ: OBSラジオ「甲斐蓉子の教えて!農業」(2009年7月~)
・テレビ: OBSテレビ「Hadge Padge TV」(2021年4月~)

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