こんにちは、大田です。
いつもブログをご覧いただきありがとうございます。近年、夏場の気温が年々上昇し、記録的な猛暑日が続くことも珍しくなくなってきました。こうした高温環境は、野菜や果樹の栽培においても大きなリスク要因となります。
高温ストレスによる作物の品質低下や着果不良、さらには病害虫の蔓延など、夏場特有の課題をどのように乗り越えるかが、生産者にとっての大きなテーマです。そこで今回は、「夏場の高温がもたらす作物への影響」から「高温対策に有効な栽培管理のポイント」、そして「バイオスティミュラントの活用法」までを包括的に解説します。
主にナス、トマト、ピーマン、きゅうり、ネギ、リンゴ、キャベツを例に取り上げますが、他の作物を育てている方も応用できる内容になっています。ぜひ最後までお付き合いください。
夏場の高温がもたらす作物への影響
気温上昇の実態
■ 気温上昇データ:
2023年6〜9月:全国平均気温 平年比+1.8℃
2024年7月下旬:栃木県で41℃を観測
結果:2年連続で年間平均気温が最高記録を更新
こうしたデータをまとめるのが JMA(気象庁)で、JMAの長期予測によると 2040年ごろには現在”異常”と呼ばれる猛暑が”ほぼ毎年並み” になる可能性が高いとされています。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書は、2050年までに東アジアの猛暑日(35℃以上)が現在の2〜3倍に増えるシナリオを提示しており、農業現場は「慣れ」で乗り切れるレベルを超えつつあります。
植物の代謝への影響
こうした持続的な高温化は、作物がもつ四大代謝――光合成・呼吸・蒸散・栄養転流――のすべてに同時多発的なブレーキをかけます。
◆ 光合成への影響
日中35℃超の強光下では光合成がすでに飽和して余剰光エネルギーが活性酸素へ転化し、葉緑体を酸化ストレスで傷めます。
◆ 呼吸への影響
夜間25℃以上の熱帯夜が続くと呼吸量が増え、昼間に生成した糖やアミノ酸を自己消費してしまうため、果実や塊茎、葉鞘への転流が不足して肥大不良や品質低下を招きます。
◆ 蒸散への影響
蒸散量も跳ね上がるため根圧が追いつかず、気孔閉鎖が遅れて葉温がさらに上昇し、光合成効率が急落する――まさに負のスパイラルです。
病害虫への影響
病害虫の側面では、高温多湿がライフサイクルを短縮させ、うどんこ病菌や軟腐病菌、ハダニ、アザミウマなどが通常の1.5〜2倍の速度で世代交代を繰り返すケースも確認されています。
これら複合ストレスは、花粉活力の低下・根系機能の失調・果実内部障害を同時に引き起こし、最終的には大幅減収につながります。
現場の最新事例
2024年に岐阜県のトマト農家が 外張り遮熱フィルム+高容量換気ファン+夜間ミスト冷却 を組み合わせ、ハウス内を45℃以上にしない管理を徹底した結果、尻腐れ果が平年の4割程度に収まりました。
一方、群馬県の露地キャベツ産地では 7月上旬から二重寒冷紗で葉温を3〜4℃下げた区画が、未被覆区画より結球率が15%高かった という報告もあります。
こうした「遮熱・冷却・根圏強化」を柱にした立体的な高温対策こそ、これからの夏を乗り切るカギと言えるでしょう。
ナス
◆ 高温の影響
連日の猛暑で気温だけでなく夜温までも高止まりすると、ナスは花粉管の伸長が阻害されます。その結果、開花後に受粉不全のまま花が落ちる「落花・落果」が顕著になります。
日中と夜間の温度差が縮小すると、細胞分裂が葉や茎に偏って果実の肥大サイクルが不均衡になります。これにより果皮が早熟化して光沢が失われやすくなります。
とくにヘタ周囲の組織はリグニン化が進みコルク質の硬い帯が生じやすく、収穫時にヘタが割れたり果実が変形したりして市場価値を下げます。
さらに猛烈な日射と乾燥が重なると、果実の内部細胞がスポンジ状に崩れて空洞化し、食味の低下や変色を招きます。
株全体では高温・乾燥ストレスによる蒸散過多で根系が水分吸収に追いつかず、一過性の萎れを繰り返すことで光合成が低下し、後半の樹勢が急激に衰える悪循環に陥ります。
対策
朝夕の点滴潅水を導入し、蒸散ピークが来る前から十分な水を吸収できるようにします。
三本仕立てを基本に、肥大初期の側枝果を小まめに摘果して樹勢を分散させ過ぎないようにします。
遮光率30%前後のネットを可動式で設置し、晴天日は張り、曇天日は開けて光量不足を防ぎます。
バイオスティミュラントを定植直後と初花前に潅注し、一次根の伸長を活性化させます。
気温35℃以上が続く場合は株元に反射マルチを敷き、地温と果面温度の同時抑制を行います。
トマト
◆ 花粉への影響
トマトの花粉は夜間温度が25℃を超えた状態が三日ほど続くと、デンプン分解酵素と多価不飽和脂肪酸の代謝が鈍化して発芽能力が急落します。その結果、開葯不全花が現れ、外見は開花していても花粉が飛散せず着果率が20%以下に落ち込むことがあります。
◆ 栄養バランスの崩れ
高温期は蒸散負荷が高まり、地上部へのカリ移行が優先されるため果実内カルシウム濃度が不足します。これにより「尻腐れ果」の発生頻度が跳ね上がります。
◆ 果実品質への影響
果面温度が40℃を超えると果皮細胞がリグニンを過剰生成し、白〜褐色のコルク斑が浮くサンバースト症状が現れ、外観商品価値が極端に下がります。
加えて、光呼吸(植物が光エネルギーを消費するだけで糖を作れない状態)が優勢になり糖同化が滞るため、高温期にセットされた果房は糖度が伸びず酸度も抜けやすく、味がぼやける傾向が強くなります。
◆ 根系への影響
根系では土壌溶存酸素が不足し根先の呼吸が妨げられて毛細根が黒変しやすく、後半には肥料が効きにくい「栄養乗り遅れ」が発生します。
対策
夕方の強制換気と夜間循環扇を併用し、夜温を24℃以下に保ちます。
週1回、塩化カルシウム0.2%液を葉面散布して果実先端のカルシウム欠乏を抑えます。
畝間に高反射シートを敷き、光量を確保したまま果面温度を約3℃下げます。
第一花房は8果留めを5果留めに切り替え、肥大時期を分散させます。
バイオスティミュラントを着果直後に葉面散布し、光合成酵素の熱不活化を緩和します。
ピーマン
◆ 花粉と着果への影響
ピーマンは花粉の発芽適温が22〜28℃と狭く、30℃を超えると花粉膜の水和が不十分で発芽率が急落します。この状態が続くと、内部隔壁が未形成のまま果実が膨らむ「空洞果」や、胚珠の不均衡肥大による尻すぼみ果が多発し、規格外率が5割を超えることもあります。
◆ 果実品質への影響
直射日光で果面温度が40℃を超えると、表皮細胞のタンパク質変性による褐色硬化(日焼け)を起こし、収穫適期を過ぎる前に売り物にならなくなります。
高温ストレス下でのクロロフィル分解速度は平常時の1.5倍に達し、収穫後常温に置いただけで緑色が速く褪せ、黄化が進む「色あせ果」が急増します。
◆ 根系への影響
根は浅根性のため地温上昇に弱く、マルチ下で35℃を超えると根端の伸長停止が起こり、乾燥ストレスと養水分欠乏が同時に進むため後半樹勢が極端に落ちやすいのが難点です。
対策
草丈70cmを目安に主枝を摘心し、側枝への栄養分配を改善します。
40%遮光ネットと側面換気口を組み合わせ、ハウス内湿度を80%以下に保ちます。
根群を回復させるため、バイオスティミュラントを10〜14日ごとに潅注します。
収穫果は当日中に10℃で予冷し、クロロフィルの熱分解を抑えます。
地温が高い時期は黒マルチを銀色マルチに交換し、根域温度を下げます。
きゅうり
◆ 水分ストレスの影響
きゅうりは蒸散量が野菜の中でも最大級で、夜間の水分リカバリーが不足すると果実伸長が均一に進まなくなり、曲がり果や尻細り果が増加します。
◆ 着果と病害への影響
夜温が25℃を超えている状態で日中の気温が35℃を超えると、花粉の受精率が急落し奇形果が多発します。
高温多湿下ではうどんこ病菌の菌糸伸長速度が平時の2倍となり、抵抗性遺伝子を持つ品種でも葉面全体に粉状斑が広がります。
◆ 光合成と根系への影響
気孔は高温で閉鎖が遅れるため、葉温が上がり光合成能が低下し、後半の果実が甘み不足かつ軟弱組織になるリスクが高くなります。
地面では表層温度が30℃を超すと根の活性が極端に下がり、特に二番根・三番根の生長が止まるため、潅水頻度を増やしても吸水効率が追いつかず「水があるのに萎れる」現象が発生します。
対策
夕方16時と夜20時の二段階潅水で夜間吸水を確保します。
誘引作業では1葉1果を厳守し、果実負担を均一にします。
花後5日目にバイオスティミュラントを散布し、細胞伸長を均一化します。
うどんこ病の発病葉は発見当日に切除・焼却し、接種源を遮断します。
銀色反射マルチを敷き、地温と害虫誘引を同時に抑制します。
ネギ
◆ 病害への影響
ネギは葉鞘部が重なり合う構造ゆえ、高温多湿ではErwinia属細菌が浸入しやすく、内部で軟化を起こす軟腐病が数日で株全体に広がります。
気温30℃を超えると病原細菌の増殖速度が倍加し、匂いと粘液を伴う腐敗が急速に進むため、市場出荷どころか畑ですべて倒伏する例もあります。
◆ 害虫と二次感染
ネギアザミウマは高温条件で発生ピークが前倒しされ、葉鞘内部に産卵して吸汁することで銀白色の条斑を残し、光合成面積を奪っていきます。
また高温乾燥で葉先が裂けると、その傷口から二次的に黒斑細菌病やさび病が侵入し、葉先枯れが連鎖的に広がります。
◆ 長期的影響
長期的なダメージとしては真夏に根の活性が低下することで秋の肥大が鈍り、白根部が短い「短ネギ」になってしまう点も無視できません。
対策
透排水性の高いベッド高畝と株元マルチで雨後の過湿を回避します。
夕立後24時間以内に銅水和剤を散布しErwiniaの定着を阻止します。
目合い0.8mmの防虫ネットを葉鞘部まで覆い、ネギアザミウマの侵入を90%以上減らします。
バイオスティミュラントを育苗~定植後に潅注し、夏場でも根張りを維持します。
早朝に株元へ少量潅水し、露滴乾燥後に葉面多湿を避ける管理を徹底します。
たまねぎ
◆ 根と外皮への影響
玉ねぎは球肥大期に地温が30℃近くまで上がると、低酸素状態で根の呼吸が阻害され、根端の老化が進行して養分・水分の吸収効率が著しく低下します。
この時期に強光と乾燥が重なると、外皮表面のワックス層が割れて「外皮裂皮」が起こり、そこから軟腐病菌や黒腐菌が侵入して球全体が腐敗するリスクが高まります。
◆ 首部と貯蔵性への影響
首部の伸長点は高温により生長ホルモンが過剰に分泌され「首太り・首伸び」を引き起こし、貯蔵性が大幅に落ちるうえ、機械選別で規格外になりやすくなります。
極端な高温乾燥が抽苔スイッチとして働き、耐暑性の低い中生品種では真夏に花茎が伸びるケースも報告されています。
対策
白黒マルチと敷きワラを併用し、地温上昇と水分蒸散を同時に抑えます。
夕方に潅水して夜間保湿を確保し、球肥大を安定させます。
耐暑・晩抽系品種を採用し、首伸びと抽苔リスクを軽減します。
防虫ネットでタマネギアザミウマの吸汁被害を低減し裂皮発生を抑えます。
球肥大期にバイオスティミュラントを葉面散布し、高温ストレス下の同化速度を維持します。
じゃがいも
◆ 塊茎形成と成長への影響
馬鈴薯の塊茎形成適温は18〜22℃で、地温25℃を超えると新しい塊茎のセット数が著しく減少します。
既存塊茎は高温にさらされると皮下の維管束から再び伸長が始まり「二次成長」を起こし、貿易船型の変形イモや奇形イモが増えます。
◆ 病害への影響
さらに高温多雨が重なると、そうか病菌が地表近くで活発化し、浮き上がった塊茎表面に瘡蓋状の病斑を多数形成します。
また高温乾燥後の豪雨は地温を高止まりさせたまま過湿状態を生み、軟腐病菌の進入で塊茎が溶ける「水浸状腐敗」を招きます。
◆ 内部障害
内部ではカルシウム不足に伴う中空化(ホロウハート)が起こりやすく、収穫・調製工程で割れやすいイモが増えるため出荷ロスが跳ね上がります。
対策
春作は早植え・早掘りで高温期前に収穫を終え、秋作は高冷地適応品種を選びます。
定植後からバイオスティミュラントの潅注で発根を促進し、しっかり活着させます。
株元に厚さ5cm以上の敷きワラを敷いて地温上昇と表土乾燥を抑えます。
高温期は早朝に短時間潅水し、日中の過湿と地温上昇を同時に避けます。
Ca・Mg葉面散布で細胞壁を強化し、空洞化とそうか病を抑制します。
つる刈り後は直ちに収穫し、圃場内での二次成長と病原菌侵入を防ぎます。
リンゴ
◆ 果実表面への影響
リンゴの果面温度が45℃を超えると表皮細胞の脂質二重膜が破壊され、サン焼け障害が発生します。
障害部では光合成色素の分解が進み褐変するとともに果肉細胞でもブラウニングが進むため、外観・食味ともに甚だしく低下します。
◆ 果実の生理に与える影響
夏の乾燥が強いと果軸の木質化が早まり、樹体の水勢が下がったときに果柄維管束が断裂して二次落果が大量発生します。
夜温が高いまま推移するとアントシアン合成酵素の発現が抑制され、着色は遅れるうえ色まわりにムラが生じ、秀品率が低下します。
高温ストレス下では光合成が糖より呼吸に使われる比率が高まり、後半糖度の伸びも鈍くなります。
対策
樹冠外周の摘葉は7月上旬で止め、過剰直射を避けます。
畝間に反射シートを敷き、さらに20%遮光ネットでサン焼けを約60%低減します。
株元潅水チューブを2本に増設し、日中の樹体水勢を維持します。
8月と9月にバイオスティミュラントを葉面散布し、着色遅れや糖度の伸びを補助します。
日焼けの出やすい西面果実には薄紙袋掛けで局所的な遮光を行います。
キャベツ
◆ 結球への影響
夏キャベツは外葉の細胞伸長が旺盛で、球芯部の葉重ねが追いつかず巻きが甘くなる「未結球」「緩結球」が増えます。
芯が伸びすぎると切り口が褐変しやすく、荷痛みで選別ロスが拡大します。
◆ 害虫と病害への影響
高温期はアブラムシの世代時間が4〜5日と短くなり、黄化萎縮ウイルス(TuYV)の伝搬速度が加速します。
ヨトウムシは夜温25℃で発育ステージが17日周期まで短縮し、葉裏食害が追いつかず穴あき葉が続出します。
さらに高温多雨で土壌窒素の無機化が急進すると過剰窒素で軟弱徒長が生じ、病害虫被害が一層ひどくなる悪循環に陥ります。
対策
熱帯型・耐芯伸び品種を6月中旬に定植し、真夏の結球期を回避します。
寒冷紗と不織布を二重被覆し、アブラムシと強光を同時に遮断します。
ヨトウムシ初齢発生を確認したら48時間以内にBT剤を散布します。
結球始期に速効性窒素の施用を打ち切り、有機質主体へ切り替えます。
高温日中はバイオスティミュラントを含む水を散水し微気候を下げ、夕方の被覆持ち上げで夜冷を取り込みます。
高温対策に有効な栽培管理のポイント
水分管理の最適化
点滴潅水システムの導入や朝夕の2回潅水を実施することで、作物が常に適切な水分を保てるようにします。特に朝は日の出前、夕方は日没後の涼しい時間帯に行うことで、水分の蒸発ロスを最小限に抑えられます。蒸散ピークの前に十分な水分を確保することで、日中の一時的な萎れを防ぎ、光合成効率を維持できます。
温度環境の制御
遮光ネット(20〜40%)、反射マルチ、敷きワラなどを組み合わせて使用し、株・果実・土壌それぞれの温度上昇を抑制します。これらの資材は直射日光による温度上昇を3〜5℃程度下げる効果があり、特に果実の日焼けや根の活性低下を防ぐのに効果的です。施設栽培では側窓や天窓の開閉タイミングの最適化も重要です。
株管理の徹底
整枝・摘果・摘葉作業を適切に行い、株の負担を軽減しながら風通しを良くします。高温期は樹勢維持と通気性確保のバランスが特に重要です。過密状態を避けることで病原菌の繁殖を抑制し、限られた養分を実りのある果実に集中させることができます。
施肥方法の工夫
高温期は少量多回数施肥を心がけ、有機質肥料の割合を増やします。速効性の化学肥料は地温上昇と相まって根を傷めやすいため、緩効性肥料や液肥とバイオスティミュラントの葉面散布などを組み合わせると効果的です。特に高温期は微量要素(カルシウム・マグネシウム・ホウ素など)の不足に注意し、必要に応じて葉面散布で補います。
こまめな観察と早期対応
高温期は病害虫の繁殖サイクルが短くなるため、最低でも2日に1回は圃場を巡回し、変化を見逃さないようにします。初期段階の小さな問題(葉の変色、虫の卵、花の異常など)を見つけたら即座に対処することで、被害の拡大を防ぎます。特に夕立後は24時間以内の防除処置が非常に効果的です。
バイオスティミュラントとは
主な成分
海藻から取ったエキス、アミノ酸やペプチド、良い働きをする菌、土を黒くする腐植酸などが主な成分です。
作用の特徴
肥料のように栄養をドンと与えるのではなく、作物が自分の力で暑さ・乾きに耐える仕組みを後押しします。
施用することで根を太く長く伸ばし、毛細根を増やします。また葉の中で光合成を守り、根のまわりでミニサイズのビタミン工場になってくれます。
◆ 現場での実績
最新の現場例では、岐阜県のトマト農家がバイオスティミュラントを潅水と一緒に流したところ、猛暑でも尻ぐされ果が半分以下になり糖度もアップしました。
青森のリンゴ園ではバイオスティミュラントを5月と7月にまき、葉焼けを抑えつつ赤い色づきをそろえることに成功しています。
◆ 規格と将来技術
海外ではEUが22年に専用ルールを作り、日本でも25年ごろにJAS規格が整う予定です。
将来技術も動き出しています。気温が30℃を超えると殻がふくらんで中身を放出する「温度センサー入りマイクロカプセル」は大学とメーカーが屋外試験中で、実用化まであと3〜5年と言われます。
また、天気データと連動し「3日後に猛暑が来るので今夜散布を」とスマホ通知するアプリは欧州の大規模農場で試験運用が始まっており、日本版も26年ごろ導入見込みです。
まだ誰もがすぐ使える段階ではありませんが、暑さが当たり前になる未来に向け、バイオスティミュラントは”保険”ではなく”日常ツール”へと成長していくと考えられています。
夏場の高温対策におけるバイオスティミュラント活用事例
根系強化法
まず、バイオスティミュラントを株元へ流し込む方法。多糖が根をグンと伸ばし、菌が根のそばで天然のビタミンやホルモンを作るので、真夏でも土の深い場所から水分を吸い上げられます。
滋賀県のキュウリ農家では、この処理を行った畝だけ午後のしおれが出ず、可販果が2割増えました。
葉面保護法
二つ目は、バイオスティミュラントを花が咲く頃に葉へ吹き付ける方法です。アミノ酸は葉の中で”暑さで壊れかけた酵素”を修復し、花粉や若い実の生き残りを助けます。
徳島のピーマン圃場では空洞果が大幅に減り、収穫後の色あせも遅れました。
果皮強化法
三つ目は果樹園の事例。リンゴやモモにバイオスティミュラントを猛暑日の前日に葉面散布すると、葉の水分保持力と果皮の厚みが同時に強化され、日焼け果が目に見えて減ります。
長野のリンゴ園では、35℃超の日が15回あった年でも秀品率が9割を保てました。
将来技術の展望
今後は、温度や日射をセンサーで測りながら液の注入量を自動で変える点滴潅水システムや、AIが7日先の気温を予測して「今夜散布してください」とスマホに通知するサービスが出てくる予定です。
これらが普及すれば、生産者は天気とにらめっこしながら手動で資材をまく手間が減り、作物は「暑くなる前に先回りで守られる」状態が当たり前になると期待されています。
バイオスティミュラントを使うときの注意点
目的に合った製品選び
まず大切なのは目的に合った製品選びです。たとえば根を強くしたいときは海藻や微生物系、花を守りたいときはアミノ酸系、土をふかふかにしたいときは腐植酸系など、狙いと成分をしっかり結び付けます。
ラベルに書かれている希釈倍率や散布(または潅注)タイミングは”効き目の設計図”なので勝手に薄めたり濃くしたりしません。推奨濃度を守らないと、効果が半減するばかりか葉や根を傷めることもあります。
混用テスト
次に意外と盲点なのが混用テスト。液肥や農薬と同じタンクに入れる場合、PETボトルなど小さな容器で少量を混ぜ、5〜10分置いて沈殿や白濁、温度上昇がないか確認してください。
とくにカルシウム剤や強アルカリ性の薬剤は、海藻エキス等と反応してゲル状に固まりやすいので注意が必要です。もし沈殿が起きたらタンクを分けるか、散布日をずらしましょう。
小面積での試験導入
三つ目は小面積での試験導入です。”一か八か”で全面積にまくのではなく、圃場の一角や10本の果樹だけを試験区に設定し、収量・秀品率・糖度・日持ちなど具体的な数字をメモします。
製品と作物の相性、そして費用対効果がはっきり見えるので、「高いけれど得だった」「安かったけれど効果はイマイチ」と判断しやすくなります。記録は紙でもスマホでもかまいませんが、天気や散布時間も一緒に書くと次年度のヒントになります。
基本管理の重要性
四つ目は基本管理をおろそかにしないこと。バイオスティミュラントはあくまでも”補助役”で、潅水不足や過剰施肥、病害虫放置を帳消しにしてくれる万能薬ではありません。
十分な水・適正な肥料・早めの防除という土台があって初めて、「暑さに強い根になる」「着果が落ちない」「葉焼けしにくい」といった効果が光ります。ハウス栽培なら温度と湿度、露地栽培なら排水と日当たりをチェックし、環境条件も同時に整えてください。
保管と安全
最後に保管と安全にも触れておきます。液体タイプは高温で成分が分解しやすいため、物置でも直射日光が当たらない20℃前後の場所に置き、開封後はなるべく当シーズン中に使い切ります。
粉剤や顆粒剤は湿気を避け、密封容器で保管すると品質が長持ちします。希釈や散布時にはゴム手袋とマスクを着用し、皮膚や目に入った場合はすぐ水で洗い流しましょう。こうした基本を守れば、バイオスティミュラントは作物の”暑さ耐性”を底上げする頼れる相棒になってくれます。
まとめ
夏場の高温ストレスは、ナスやトマトといった果菜類からリンゴなどの果樹まで、ほぼすべての作物に深刻な影響を及ぼします。
まずは 潅水管理・遮光/反射・適正施肥・初期防除 という基礎の4本柱を徹底し、作物が「暑さに耐えられる土台」を整えることが最優先です。
そのうえで海藻エキス、アミノ酸、善玉菌、腐植酸などのバイオスティミュラントを補助的に使えば、根は深く張り、花粉は元気を保ち、果実や葉はダメージを受けにくくなります。
記録的猛暑が続くと予想される今夏こそ、環境づくり(基礎管理)とサプリメント(バイオスティミュラント)の”二段構え”で臨み、猛暑に負けない高品質・高収量を目指しましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
