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海藻エキス肥料の実力とは?成分・効果・使い方を徹底解説

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こんにちは、ファームテック株式会社の大田です。

最近、農業現場で「海藻エキス」への関心が高まっているのを感じます。

展示会や農家さんとの会話の中でも、海藻エキスについて興味をお持ちの方が増えてきました。

「海藻エキスって本当に効果があるの?」「どんな成分が入っているの?」「うちの作物にも使えるかな?」といった声をよく耳にします。

そこで今回は、海藻エキスの基礎知識から実践的な使い方まで、農業現場で役立つ情報を分かりやすくまとめてご紹介したいと思います。

目次

はじめに:持続可能な農業への新たな一手

現代農業は、気候変動、土壌疲弊、そして消費者の安全・安心志向の高まりといった、かつてないほどの課題に直面しています。収量と品質の向上を追求する一方で、環境負荷の低減と持続可能性の確保が喫緊の課題となっています。このような状況において、従来の化学肥料や農薬に依存するだけではない、新たなアプローチが求められています。その一つとして、近年注目を集めているのが「バイオスティミュラント資材」です。

特に、海の恵みを凝縮した「海藻エキス」は、その多様な成分と複合的な効果により、これからの環境保全型農業を支える重要な資材となると考えられます。本記事では、海藻エキスの基礎知識から、その驚くべき成分、そして液肥や葉面散布としての具体的な活用法、さらには農業現場で期待される効果までを詳しく解説し、生産者の皆様の営農に新たな価値をもたらす海藻エキスの可能性について深く掘り下げていきます。

1. 海藻エキスとは?海の恵みが凝縮された天然資材

「海藻エキス」と聞いて、皆様はどのようなイメージをお持ちでしょうか。文字通り、海に生育する海藻から抽出された成分を濃縮したものであり、その形態は液体、粉末、ペレットなど多岐にわたります。海藻は、地球上で最も過酷な環境の一つである海中で、波や潮の流れ、温度変化、そして限られた光といった様々なストレスに耐えながら生育しています。そのため、自らを守り、成長を促すための独自の生理活性物質を豊富に蓄積しているのです。

海藻エキスの原料となる海藻は、ワカメ、コンブ、モズク、メカブといった褐藻類、紅藻類、緑藻類など、多種多様です。これらの海藻は、それぞれ異なる成分組成と特性を持っており、抽出方法も様々です。例えば、低温抽出や酵素分解といった方法を用いることで、海藻が持つ有効成分を損なうことなく、最大限に引き出すことが可能となります。高品質な海藻エキスは、特定の海藻種から厳選され、その生育環境や収穫時期にも配慮して製造されます。例えば、ノルウェー産の海藻「アスコフィルム・ノドサム」は、その豊富な栄養素と生理活性物質の含有量から、特に高品質な海藻エキスの原料として世界的に評価されています。

海藻エキスは、その天然由来の安全性と、植物の健全な生育をサポートする多機能性から、農業分野だけでなく、化粧品や健康食品の分野でも広く利用されています。しかし、農業におけるその真価は、単なる栄養補給にとどまらず、植物の生命力を根底から高める「バイオスティミュラント」としての役割にあります。次の章では、この海藻エキスに秘められた驚くべき成分について、さらに詳しく見ていきましょう。

2. 海藻エキスの驚くべき成分:植物の力を引き出す秘密

海藻エキスがなぜ植物の生育にこれほどまでに良い影響を与えるのか、その秘密は、海藻が持つ独自の豊富な成分にあります。一般的な化学肥料が窒素、リン酸、カリウムといった主要な栄養素を供給するのに対し、海藻エキスは、植物の生理機能を活性化させる多種多様な微量要素や生理活性物質をバランス良く含んでいます。これらの成分が複合的に作用することで、植物は本来持っている潜在能力を最大限に引き出すことができるのです。

多糖類:土壌と植物の健康を支える縁の下の力持ち

海藻エキスに豊富に含まれる多糖類は、特に重要な成分の一つです。代表的なものとして、アルギン酸、ラミナリン、マンニット、フコイダンなどが挙げられます。これらの多糖類は、土壌中で微生物のエサとなり、土壌微生物の活動を活発化させます。微生物が活発に活動することで、土壌の団粒構造が促進され、通気性や保水性が向上し、根が張りやすい健全な土壌環境が形成されます。また、多糖類は植物の免疫システムを強化し、病原菌への抵抗力を高める効果も期待されています。例えば、ラミナリンは植物の病害抵抗性を誘導するエリシター(植物の防御反応を引き起こす物質)として機能することが知られており、フコイダンは抗酸化作用や免疫賦活作用を持つことが研究で示唆されています。

豊富なミネラルとビタミン:植物の生命活動を支える微量要素

植物の生育には、窒素、リン酸、カリウムといった多量要素だけでなく、鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素、カルシウム、マグネシウムなど、様々な微量要素が不可欠です。これらの微量要素は、植物体内で酵素の構成成分となったり、光合成や呼吸といった重要な代謝反応を円滑に進める上で欠かせない役割を担っています。土壌中の微量要素が不足すると、植物は生育不良や生理障害を起こしやすくなります。海藻エキスには、これらの微量要素が自然な形でバランス良く含まれており、植物が吸収しやすい形で供給されるため、微量要素欠乏の改善や予防に効果的です。さらに、植物の代謝活動をサポートするビタミン類も豊富に含まれており、植物全体の健康維持に貢献します。

アミノ酸と植物生長ホルモン様物質:生育を促進する生命の源

アミノ酸は、植物のタンパク質を構成する基本的な単位であり、植物の生育、特に新しい細胞の生成や組織の形成に不可欠な成分です。海藻エキスに含まれる多様なアミノ酸は、植物が自らアミノ酸を合成するエネルギーを節約し、その分を生育に回すことを可能にします。これにより、生育促進、特に初期生育の旺盛化や、ストレス時の回復力向上に寄与します。また、海藻エキスには、オーキシン、サイトカイニン、ジベレリンといった植物ホルモンと類似した働きをする物質(植物生長ホルモン様物質)が含まれていることが報告されています。これらの物質は、細胞の伸長、分裂、分化を促進し、発根の促進、茎葉の成長、花芽形成、果実の肥大など、植物の様々な生長プロセスに影響を与えます。特に、発根促進効果は顕著であり、定植後の活着促進や、根の健全な発達をサポートすることで、植物全体の養分吸収能力を高めます。

このように、海藻エキスは単一の成分が作用するのではなく、多糖類、ミネラル、ビタミン、アミノ酸、植物生長ホルモン様物質といった多岐にわたる成分が相乗的に作用することで、植物の健全な生育を多角的にサポートする、まさに「海の恵み」が凝縮された天然資材と言えるでしょう。これらの成分が、植物のストレス耐性を高め、病害虫への抵抗力を強化し、最終的に品質と収量の向上へと繋がるのです。

3. 海藻エキス 液肥・肥料としての活用:土壌と植物へのアプローチ

海藻エキスは、多様な成分と優れた効果により、液肥や固形肥料として幅広く活用されています。その利用方法は、土壌の状態や作物の生育段階に合わせて柔軟に対応できるため、栽培者の方々の様々なニーズに応えることができます。

液肥としての海藻エキス:即効性と吸収効率の高さ

海藻エキスを液肥として使用する最大のメリットは、その即効性と植物への吸収効率の高さにあります。水で希釈して株元に潅水することで、根から直接有効成分が吸収され、速やかに植物全体に行き渡ります。特に、低温期や乾燥期など、植物の根の活動が鈍り、養分吸収能力が低下しやすい時期には、液肥としての海藻エキスが非常に有効です。根からの吸収が難しい状況でも、必要な栄養素や生理活性物質を効率的に供給することで、植物のストレスを軽減し、健全な生育を維持することができます。

また、海藻エキス液肥は、他の液肥や農薬との混用が可能な製品が多く、既存の施肥体系に容易に組み込むことができます。例えば、窒素、リン酸、カリウムを主成分とする液肥と併用することで、主要栄養素の吸収を促進し、相乗効果によって作物の生育をさらに向上させることが期待できます。混用する際には、製品ごとの注意事項や推奨希釈倍率を必ず確認し、適切な濃度で使用することが重要です。一般的には500〜1000倍程度に希釈して使用することが多いですが、製品により異なるため必ず確認してください。

固形肥料としての海藻エキス:土壌改良と持続的な効果

海藻エキスは、ペレット状や粉末状の固形肥料としても利用されます。固形肥料の場合、土壌に施用することで、海藻エキスに含まれる多糖類が土壌微生物のエサとなり、微生物の活動を促進します。これにより、土壌の団粒構造が発達し、通気性、保水性、排水性が向上するなど、土壌環境が根本的に改善されます。健全な土壌は、植物の根が健全に伸長するための基盤となり、養分吸収能力の向上に繋がります。

固形肥料としての海藻エキスは、液肥のような即効性はありませんが、土壌中でゆっくりと分解され、持続的に有効成分を供給するという特徴があります。元肥として施用することで、作物の生育期間を通じて土壌環境を良好に保ち、根の健全な発達をサポートします。特に、土壌の物理性や生物性を改善したい場合や、連作障害の軽減を目指す場合には、固形肥料としての海藻エキスの活用が有効な選択肢となります。

土壌と植物への複合的なアプローチ

海藻エキスは、液肥としても固形肥料としても、単に栄養を供給するだけでなく、土壌と植物の両方に働きかける複合的な効果をもたらします。土壌においては、微生物の活性化と団粒構造の形成を通じて、根が養分を吸収しやすい環境を整えます。植物においては、豊富な微量要素、アミノ酸、植物生長ホルモン様物質が、根の伸長、茎葉の成長、光合成能力の向上など、植物本来の生理機能を活性化させます。この土壌と植物への相乗的なアプローチこそが、海藻エキスがバイオスティミュラント資材として高く評価される理由であり、循環型農業を実現するための重要な鍵となるのです。

4. 海藻エキス 葉面散布のすすめ:即効性と効率的な栄養補給

海藻エキスの効果的な利用方法の一つに、「葉面散布」があります。これは、海藻エキスを水で希釈し、作物の葉の表面に直接散布することで、葉から有効成分を吸収させる方法です。土壌からの吸収とは異なる経路で栄養を供給するため、様々なメリットがあり、特に即効性と効率的な栄養補給が期待できます。

葉面散布のメリットと効果的な散布方法

葉面散布の最大のメリットは、その速効性にあります。根からの吸収に比べて、葉からの吸収は非常に速く、植物の生育状況に応じて必要な成分を迅速に供給することができます。例えば、生育初期の栄養補給、開花期や結実期の栄養強化、あるいは病害虫や気象ストレスを受けた際の回復促進など、特定の時期や状況に合わせてピンポイントで栄養を供給することが可能です。また、土壌の状態に左右されずに成分を供給できるため、土壌のpHが適切でない場合や、根の活力が低下している場合でも、植物に直接働きかけることができます。

効果的な葉面散布を行うためのポイント:

  • 葉の裏側にもしっかりと散布する(気孔が多く吸収効率が高い)
  • 散布時間は早朝や夕方の涼しい時間帯を選ぶ
  • 高温時や乾燥時は避ける
  • 100%水溶性製品なら散布機の詰まりの心配が少ない

微量要素補給とストレス耐性向上への貢献

海藻エキスを葉面散布することで、植物の生育に不可欠な微量要素を効率的に補給することができます。土壌中に微量要素が不足している場合や、土壌中の他の成分との拮抗作用によって吸収が阻害されている場合でも、葉面散布であれば直接植物に供給できるため、微量要素欠乏による生理障害の予防や改善に繋がります。海藻エキスに含まれる鉄、亜鉛、銅、マンガン、ホウ素、カルシウムなどの微量要素は、植物の光合成能力を高め、健全な代謝活動をサポートします。

また、葉面散布された海藻エキスは、植物のストレス耐性を向上させる効果も期待できます。海藻エキスに含まれる多糖類やアミノ酸、植物生長ホルモン様物質は、植物が乾燥、高温、低温、塩害、病害虫などの非生物的・生物的ストレスに直面した際に、その抵抗力を高める働きをします。例えば、多糖類は植物の細胞壁を強化し、病原菌の侵入を防ぐバリア機能を高める可能性があります。アミノ酸は、ストレス時に植物が消費するエネルギーを節約し、回復を早める効果が期待されます。このように、葉面散布は、植物を様々なストレスから守り、安定した生育を促すための有効な手段となります。

他の資材との混用と展着剤としての役割

海藻エキスは、多くの農薬や他の液肥との混用が可能です。これにより、一度の散布作業で複数の効果を同時に得ることができ、作業効率の向上に繋がります。特に、尿素やアミノ酸系の液肥との混用は、相乗効果が期待できる組み合わせとして推奨されることがあります。また、海藻エキスに含まれるアルギン酸などの多糖類は、天然の展着剤としての役割も果たします。展着剤は、散布液が葉の表面に均一に広がり、付着性を高めることで、有効成分の吸収効率を向上させる働きがあります。これにより、散布液の無駄を減らし、より効果的な葉面散布を実現することができます。

葉面散布は、作物の生育状況や天候、土壌の状態など、様々な要因を考慮して適切に行うことで、海藻エキスの持つポテンシャルを最大限に引き出し、作物の品質向上と収量増加に大きく貢献するでしょう。

5. 海藻エキスがもたらす農業現場での具体的な効果

これまでの章で、海藻エキスの成分とその利用方法について詳しく見てきました。では、実際に海藻エキスを農業現場で活用することで、どのような具体的な効果が期待できるのでしょうか。ここでは、生産者の皆様が最も関心をお持ちであろう、作物の生育、品質、収量、そしてストレス耐性への影響について、より具体的に解説していきます。

生育促進・発根促進:健全な初期生育と根張りの強化

海藻エキスに含まれる植物生長ホルモン様物質やアミノ酸は、植物の細胞分裂や伸長を促進し、特に根の健全な発達に大きく寄与します。定植後の活着促進効果は顕著であり、移植ストレスを軽減し、速やかに新しい環境に順応することを助けます。根がしっかりと張ることで、土壌からの水分や養分の吸収能力が向上し、植物全体の生育が旺盛になります。初期生育が順調に進むことは、その後の収量や品質に直結するため、特に育苗期や定植直後の使用は非常に効果的です。健全な根系は、病害虫への抵抗力や、乾燥などのストレスに対する耐性も高めます。

品質向上:糖度・食味の向上、果実の肥大・着色促進

海藻エキスは、作物の品質向上にも大きな効果を発揮します。特に、果菜類や根菜類においては、糖度や食味の向上、果実の肥大促進、そして鮮やかな着色に貢献することが多くの事例で報告されています。これは、海藻エキスに含まれる豊富なミネラルやアミノ酸が、光合成能力を高め、糖やアミノ酸の生成を促進するためと考えられます。例えば、トマトやイチゴの糖度向上、キュウリやナスの色艶の改善、イモ類の肥大促進などが期待できます。消費者が求める高品質な農産物を生産することは、市場競争力を高め、農家の皆様の収益向上に繋がります。

収量向上:安定した収穫と増収への期待

健全な生育と品質の向上は、最終的に収量の増加へと繋がります。海藻エキスは、植物の生理機能を活性化させ、ストレス耐性を高めることで、生育不良や生理障害による収量ロスを軽減します。また、花芽分化の促進や着果率の向上、果実の肥大促進など、収量に直接影響を与えるプロセスにも良い影響を与えます。安定した収穫量を確保し、さらには増収を目指す上で、海藻エキスは強力なサポートツールとなるでしょう。特に、気象条件が不安定な近年において、海藻エキスによる植物の強健化は、収量安定化のための重要な戦略となります。

ストレス耐性向上:病害虫、気象変動への抵抗力強化

現代農業において、病害虫の発生や異常気象は常に大きなリスクとなります。海藻エキスは、植物がこれらのストレスに打ち勝つための抵抗力を高める効果が期待されています。海藻エキスに含まれる多糖類や生理活性物質は、植物の免疫システムを活性化させ、病原菌の侵入を防ぐバリア機能を強化したり、ストレス応答遺伝子の発現を誘導したりすることが研究で示唆されています。これにより、病害虫の被害を軽減し、農薬の使用量を減らすことにも貢献する可能性があります。また、乾燥、高温、低温、塩害、強風といった非生物的ストレスに対しても、植物の生理的な適応能力を高め、被害を最小限に抑える効果が期待できます。例えば、干ばつ時の水ストレス軽減や、凍霜害からの回復促進などが挙げられます。

収穫後の鮮度保持(棚持ち)

意外に思われるかもしれませんが、海藻エキスは収穫後の農産物の鮮度保持、いわゆる「棚持ち」の向上にも寄与すると言われています。これは、海藻エキスが植物の細胞壁を強化し、細胞の健全性を維持する効果があるためと考えられます。収穫後の品質劣化を遅らせることで、流通期間中の鮮度を保ち、消費者への提供品質を高めることができます。これは、特に遠隔地への出荷や、貯蔵期間を長くしたい作物にとって、非常に重要なメリットとなります。

このように、海藻エキスは、作物の生育段階のあらゆる側面において、多岐にわたる具体的な効果をもたらします。これらの効果は、単独で現れるのではなく、相互に作用し合うことで、植物全体の健全性を高め、最終的に栽培者の方々の営農を力強くサポートする結果に繋がるのです。

6. バイオスティミュラントとしての海藻エキス

これまでの章で、海藻エキスが持つ多様な成分と、それが植物にもたらす具体的な効果についてご理解いただけたことと思います。ここで改めて強調したいのが、海藻エキスが「バイオスティミュラント」というカテゴリーにおいて、極めて重要な位置を占める資材であるという点です。

バイオスティミュラントの概念と海藻エキスの位置づけ

バイオスティミュラントとは、植物の栄養素ではないにもかかわらず、植物の生理プロセスを刺激し、栄養利用効率の向上、非生物的ストレスへの耐性強化、品質特性の向上、あるいは利用可能な栄養素の吸収を促進する物質や微生物、またはその混合物のことです。従来の肥料が植物に直接栄養を供給するのに対し、バイオスティミュラントは植物が本来持っている力を引き出し、環境適応能力を高めることで、より効率的で持続可能な農業を実現します。

海藻エキスは、その豊富な生理活性物質(多糖類、アミノ酸、ビタミン、植物生長ホルモン様物質など)が複合的に作用し、植物の代謝活動を活性化させ、ストレス応答能力を高めることから、バイオスティミュラントの代表的な資材の一つとして世界中で認識されています。特に、土壌微生物の活動を促進し、土壌環境を改善する効果は、健全な根圏を形成し、植物の養分吸収能力を根本から高める上で不可欠です。

化学肥料との違いと相乗効果

海藻エキスをバイオスティミュラントとして捉える上で重要なのは、化学肥料との役割の違いを理解することです。化学肥料は、植物の生育に必要な窒素、リン酸、カリウムといった主要栄養素を直接供給することで、作物の成長を促進します。これに対し、海藻エキスは、これらの栄養素を直接供給するのではなく、植物が化学肥料や土壌中の栄養素をより効率的に吸収・利用できるようにサポートする役割を担います。つまり、海藻エキスは化学肥料の「効果を増幅させる」相乗効果を生み出すことができるのです。

例えば、海藻エキスを施用することで、根の張りが良くなり、土壌中のリン酸や微量要素の吸収が促進されるといった効果が期待できます。また、ストレス耐性が向上することで、病害虫や異常気象による生育不良が軽減され、結果として化学肥料の効果を最大限に引き出すことが可能になります。このように、海藻エキスは化学肥料の代替品ではなく、むしろその効果を補完し、高めることで、より効率的で環境負荷の少ない施肥体系を構築するための重要なパートナーとなるのです。

7. 海藻エキス使用のポイントと注意点

海藻エキスは、その多岐にわたる効果から、農業生産において非常に有用な資材ですが、その効果を最大限に引き出し、かつ安全に利用するためには、いくつかのポイントと注意点を理解しておくことが重要です。

適切な希釈倍率と使用時期

海藻エキス製品は、それぞれ推奨される希釈倍率が定められています。この希釈倍率を厳守することが最も重要です。濃すぎると植物にストレスを与えたり、薬害を引き起こす可能性があり、薄すぎると十分な効果が得られないことがあります。製品ラベルに記載されている指示に従い、正確に希釈するようにしましょう。一般的には500〜1000倍程度に希釈して使用することが多いですが、製品により異なるため必ず確認してください。特に、葉面散布の場合は、葉の表面に直接触れるため、より慎重な希釈が必要です。

使用時期についても、作物の生育段階や目的に応じて最適な時期があります。例えば、発根促進や初期生育の強化を目的とする場合は、育苗期や定植直後が効果的です。品質向上や収量増加を目指す場合は、開花期や結実期など、作物の生理的に重要な時期に施用することが推奨されます。また、ストレス耐性向上を目的とする場合は、気象変動が予想される前や、病害虫の発生が懸念される時期に予防的に施用することも有効です。定期的な施用も効果的ですが、過剰な連用は避け、作物の状態を観察しながら判断することが大切です。

他の資材との併用時の注意

海藻エキスは、多くの化学肥料や農薬との混用が可能ですが、全ての資材と相性が良いわけではありません。特に、アルカリ性の強い農薬や、特定の金属イオンを含む資材との混用は、沈殿が生じたり、効果が減弱したりする可能性があります。混用する際は、事前に少量の液で混用テストを行い、異常がないことを確認してから使用するようにしましょう。また、製品によっては混用不可の資材が明記されている場合もありますので、必ず製品ラベルを確認してください。

製品選びの重要性

市場には様々な海藻エキス製品が出回っていますが、その品質は一様ではありません。原料となる海藻の種類、抽出方法、濃縮度、そして添加されている成分によって、その効果は大きく異なります。高品質な海藻エキスは、特定の海藻種(例:アスコフィルム・ノドサム)を厳選し、有効成分を損なわないよう丁寧に抽出・製造されています。安価な製品の中には、有効成分の含有量が少なかったり、不純物が混入していたりするものもありますので注意が必要です。

製品を選ぶ際には、以下の点に注目することをお勧めします。

  • 原料海藻の種類と産地: 高品質な海藻が使用されているか
  • 有効成分の含有量: 多糖類、アミノ酸、ミネラルなどの含有量が明記されているか
  • 抽出方法: 有効成分が効率的に抽出されているか
  • 信頼できるメーカー: 製造元が明確で、品質管理が徹底されているか
  • 使用実績と評判: 他の農家での使用実績や評価はどうか

おわりに:未来の農業を支える海藻エキスの力

本記事では、海藻エキスが持つ計り知れない可能性について、多角的に解説してまいりました。海藻エキスは、単なる肥料ではなく、植物の生理活性を高め、ストレス耐性を向上させ、最終的に作物の品質と収量を高める「バイオスティミュラント」資材として、これからの持続可能な農業において不可欠な存在となりつつあります。

現代農業が直面する様々な課題に対し、海藻エキスは、化学肥料の使用量削減、土壌環境の改善、そして気候変動への適応といった側面から、具体的な解決策を提供します。海の恵みを最大限に活用することで、より強く、より健康な作物を育て、食の安全と安定供給に貢献できるでしょう。

生産者の皆様におかれましては、ぜひ海藻エキスを営農の一環として取り入れ、その効果を実感していただければ幸いです。持続可能な農業の実現に向けて、海藻エキスという自然の力を活用し、共に新たな農業の未来を切り拓いていきましょう。

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この記事を書いた人

【プロフィール】

・出身: 1963年 大分県生まれ
・学歴: 国学院大学 卒業

【職務経歴】

・1987年: 株式会社日本実業出版社 入社
・1998年:西日本産業(株)にて主に九州管内で農業資材の開発、営業を担当。
・2009年: フリーの農業記者として食や農に関するイベント、放送番組等の
企画制作に携わる。
・2021年: ファームテック株式会社 代表取締役 就任

【主な役職・活動】

・2010年: 食農コンソーシアム大分(大分県内の若手農業者団体)代表
・2021年:大分県立久住高原農業高等学校 学校評議委員、マイスターハイスクールCEO

【研究・セミナー実績】

・共同研究:ユズ果皮が持つ抗アレルギー能と隔年結果の改善(2009年:大分大学)

・セミナー講師:

「農で生きる・農で生かす」(2012年:大分大学)
「昨今の農業ブームについて考える」(2014年:大分県農商工連携センター)

【メディア事業】

・ラジオ: OBSラジオ「甲斐蓉子の教えて!農業」(2009年7月~)
・テレビ: OBSテレビ「Hadge Padge TV」(2021年4月~)

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