こんにちは、ファームテックの大田です。
稲刈りのあと、毎年こんな声を聞きます。
「収量は悪くなかったのに、白い米が多くて等級が下がった」
汗をかいて育てたお米が、検査で一等にならない。これほど悔しいことはありません。
その原因の多くが、夏の「高温障害」です。
しかも、これは一部の地域だけの話ではなくなりました。記録的な猛暑となった2023年、全国の一等米比率が過去最低の水準まで落ち込んでいます。
でも、悲観する必要はありません。正しく備えれば、猛暑の年でも品質は守れます。
今日は、水稲の高温障害がなぜ起きるのか、白未熟粒や胴割れを防ぐために今からできる対策を整理し、後半では近年注目される「バイオスティミュラント」という新しい選択肢までお伝えします。
高温障害とは何か|白未熟粒・胴割れの正体
高温障害とは、出穂後の登熟期に高温が続くことで、お米の品質が落ちる現象です。
特に問題になるのが、出穂してからの約20日間。この時期に日平均気温が27度を超える日が続くと、白未熟粒が増えやすくなります。35度を超える猛暑なら、なおさらです。
白未熟粒とは、登熟がうまく進まず、デンプンの詰まりが甘くなって白く濁った米粒のこと。乳白粒、背白粒、基白粒などと呼ばれます。
さらに、急な高温と乾燥で米粒にヒビが入る「胴割れ米」も起こります。
どちらも、食味や見た目を損ね、一等米比率を下げる大きな原因になります。
データが示す深刻さ|2023年産の一等米比率は59.6%
どれほど深刻なのか、数字で見てみましょう。
農林水産省のまとめによると、記録的な猛暑に見舞われた2023年産米の一等米比率は、全国で59.6%(2023年9月末時点)でした。
これは2004年以降で最も低い水準でした。
例年なら8割前後がある主産地でも、大きく数字を落としました。新潟県や秋田県など、ふだん高品質で知られる地域ほど、猛暑の打撃を受けたのです。
ここだけ見ると、暗い気持ちになるかもしれません。でも、希望もあります。
翌2024年産では、全国の一等米比率は2024年10月末時点で77.1%まで回復しました。高温対策を強化した地域ほど、品質を取り戻しています。
つまり、猛暑そのものは止められなくても、備え方しだいで一等米は守れる。
これが、この記事で一番お伝えしたいことです。
高温障害が起きる仕組み|なぜ猛暑で米は白くなるのか
そもそも、なぜ暑いと米が白くなるのか。
理由は、稲も暑さの中で必死に生きているからです。
気温が高すぎると、稲の呼吸量が増えて、登熟に使うはずの養分が消耗してしまいます。夜になっても気温が下がらない熱帯夜が続くと、この消耗はさらに激しくなります。
人間でいえば、真夏の炎天下でフルマラソンを走らされているようなものです。
体力を使い果たした稲は、一粒一粒にしっかり養分を送り届けられなくなる。その結果が、あの白い米粒なのです。
仕組みが分かれば、対策の方向も見えてきます。
ポイントは、「稲を暑さから守る」ことと「暑さに耐える力をつける」ことの両方です。
まず取り組みたい、お金をかけない水管理
高温対策の基本は、昔ながらの「水管理」にあります。
登熟期の田んぼの水温と地温を下げてあげること。これが白未熟粒や胴割れを減らす第一歩です。
有効とされるのが、間断かんがいです。
2日ほど水を張り、1日落とす。これを繰り返して根に酸素を送ります。
猛暑が続くときは、日中は浅く水を張り、夕方から夜にかけて新しい水を入れる。かけ流しで田んぼ全体の温度を下げる方法もあります。
ただし、かけ流しは水を多く使うので、用水の事情と相談しながらになります。
あわせて、中干しで過剰な茎を抑えること。作土の深さを15センチほど確保することも、品質の安定につながると言われています。
どれもお金をかけずにできる対策です。
まずはここを丁寧にやることが、すべての土台になります。
施肥でできる高温対策|後半に栄養を切らさない
水管理と並んで大切なのが、施肥の設計です。
ポイントは、後半に栄養を切らさないこと。
元肥の窒素を効かせすぎると、稲が茂りすぎて、かえって高温に弱くなることがあります。
元肥は控えめにして、穂肥で必要な時期に必要な分を補う。この「後半を支える」設計が、登熟をしっかり進めるカギになります。
また、出穂前のケイ酸施用は、高温年の品質低下をやわらげるという報告があります。
ケイ酸は稲の体を丈夫にし、暑さや病気に負けにくい体づくりを助けてくれます。
土台となる土づくりについては、海藻エキス肥料や微量要素の記事でも触れていますので、あわせてご覧ください。
品種を見直すという選択肢|コシヒカリは高温に弱い
もう一つ、中長期で考えたい選択肢があります。
品種そのものを見直すことです。
長年愛されてきたコシヒカリですが、実は高温に弱いという弱点があります。
近年は、暑さに強い品種が次々と登場しています。
たとえば農研機構が育成した「にじのきらめき」は、出穂後20日間の日平均気温が28度という高温下でも、一等米の目安となる整粒歩合70%程度を維持できるとされています。
「つや姫」や「にこまる」なども、高温に強い品種として知られています。
とはいえ、品種を変えるのは大きな決断です。
食味の好み、これまでの販路、積み重ねてきた栽培の経験。どれもすぐに切り替えられるものではありません。
ですから、品種は中長期の選択肢として頭に置きつつ、今年の夏は今の品種でできる対策を尽くす。それが現実的だと思います。
それでも防ぎきれない、猛暑の限界
ここまでが、従来からある高温対策です。
ただ、正直にお話しします。
水管理も施肥も丁寧にやっているのに、それでも一等米が減ってしまう。そんな年が、近年は増えています。
なぜなら、猛暑そのものが、これまでの常識を超えてきているからです。
水で田んぼを冷やすにも限界がある。施肥を工夫しても、35度を超える日が続けば、稲の消耗には追いつけません。
「もう打つ手がないのか」
そう感じている方も、多いはずです。
そこで、もう一つの発想が必要になります。
環境を冷やすのではなく、稲そのものを暑さに強くするという発想です。
第三の選択肢、バイオスティミュラントで稲のストレス耐性を高める
そこで近年、注目されているのがバイオスティミュラントです。
聞き慣れない言葉かもしれません。
バイオスティミュラントとは、肥料でも農薬でもない、新しいカテゴリーの農業資材です。
肥料が「栄養を与える」もの、農薬が「病害虫から守る」ものだとすれば、バイオスティミュラントは「植物が本来持っている力を引き出す」もの。
特に得意とするのが、高温や乾燥といった「非生物的ストレス」をやわらげることです。
つまり、暑さに耐える力そのものを底上げしようという発想です。
水管理が「環境を冷やす」アプローチなら、こちらは「稲を強くする」アプローチ。方向は違いますが、どちらも理にかなった高温対策です。
代表的な成分には、いくつかのタイプがあります。
海藻由来の成分は、フコイダンやベタインなどが、水分の保持やストレス耐性を助けると言われています。
腐植酸(フミン酸・フルボ酸)は、根の活性を高め、根まわりの環境を整える働きが期待されています。
アミノ酸は、光合成や代謝、ストレスへの抵抗を後押しするとされています。
この分野は、農林水産省が2025年5月に「バイオスティミュラントの表示等に係るガイドライン」を策定し、定義や表示のルールが整いました。
公的な位置づけが明確になったことで、これから広がっていく資材として注目されています。
水稲でのバイオスティミュラントの使い方とタイミング
では、水稲ではどう使うのか。
ポイントは、高温が来てからではなく、来る前に備えることです。
中期予報を見て、熱帯夜が続きそうだと分かった段階で、あらかじめ葉面散布などで処理しておく。
一般には、出穂期の前後から登熟期にかけて使われることが多い資材です。
もう一つのコツは、散布する時間帯です。
葉の気孔がよく開く、早朝から午前10時ごろ。気温でいえば10度から30度くらいの、涼しい時間帯がよいとされています。
逆に、炎天下の日中に撒くのは避けましょう。
せっかくの成分が、葉に十分吸収されないまま終わってしまいます。
果樹や野菜の世界では、すでに高温対策に取り入れる動きが広がっています。
弊社でも、4大果樹や野菜の高温対策の記事でご紹介してきました。お米でも、同じ発想がこれから生きてきます。
「昔ながらのやり方で十分」と感じる方へ
ここまで読んで、こう思った方もいるかもしれません。
「うちは昔ながらのやり方で、ずっとやってきた」
「新しい資材なんて、結局お金がかかるだけじゃないか」
その気持ちは、よく分かります。
ただ、思い出してみてください。
2023年の猛暑では、ベテランの農家さんほど「今までのやり方が通用しなかった」と肩を落としていました。
気候が変われば、守り方も少しずつ変えていく必要があります。
とはいえ、いきなり全部を変える必要はありません。
まずは一枚の田んぼで試してみる。それくらいの小さな一歩で、十分です。
まとめ|今からできる、この夏への備え
高温障害は、夏になってから慌てても間に合いません。
出穂・登熟の時期から逆算して、今のうちから準備を始めることが大切です。
水管理の段取りを整える。
元肥と穂肥のバランスを見直す。
中長期では、高温に強い品種も検討する。
そして、植物の力を引き出すという新しい選択肢も、頭の片隅に置いておく。
できることを積み重ねていけば、猛暑の年でも一等米を守れる可能性は確実に上がります。
2023年に大きく落ちた一等米比率が、翌年には回復したように。
備えた人から、お米を守れるのです。
今年こそ、あの白い米粒に悩まされない夏にしましょう。
ご質問やご相談があれば、いつでもお気軽にお寄せください。
それでは、また次回の記事でお会いしましょう。

