こんにちは、ファームテックの大田です。
冬春どりのトマトは、花房が段を重ねて、追肥の判断が続く時期に入りました。
この時期、次のような迷いを抱えている方も多いのではないでしょうか。
「葉の色が薄い気がするから、追肥を増やしたほうがいいのか」
「茎が細くなってきたのは、肥料が足りないからなのか」
「株は元気そうなのに、尻腐れの果実が増えてきた」
肥料が多いか少ないかは、葉の色やなんとなくの勢いで判断されがちです。ところが、トマトの株の姿は、肥料だけでなく、温度や水、果実の付き方でも大きく変わります。
足りないと思って追肥した結果、かえって株のバランスを崩してしまうこともあります。
この記事では、トマトの肥料過多・肥料不足が株のどこに出るのか、各県の資料が示している「草勢」の見方と目安、そして追肥を足す前に確かめたいことを、公的機関の資料をもとに整理します。
肥料の過不足は、なぜ株の姿に出るのか
トマトは、茎や葉を伸ばす「栄養成長」と、花を咲かせて果実を太らせる「生殖成長」を、同時に進めながら育つ作物です。
福井県農業試験場の資料では、トマト栽培では栄養成長と生殖成長を両立させながら生育させることが、収量を確保するうえで重要だとされています。
このバランスの状態と株の勢いをまとめて、現場では「草勢(そうせい)」と呼びます。
肥料、特に窒素は、この草勢に直接影響します。岩手県の資料では、草勢を強める(茎を太くする)方向の施肥は「窒素を多く、カリを少なく」、草勢を弱める(茎を細くする)方向は「窒素を少なく、カリを多く」と整理されています。
つまり、肥料の過不足は、葉の色よりも先に、茎の太さや生長点まわりの大きさといった「株の姿」として表れます。
一方で、同じ福井県の資料には、生育診断の指標として葉の大きさや茎径、節間長などが示されているものの、実際には栽培者の経験や勘に頼っていることが多い、とも書かれています。
経験のある方ほど感覚で判断できますが、その感覚を数字で確かめられると、追肥の判断はぶれにくくなります。

肥料過多(草勢が強すぎる)のサイン
茎が太く、生長点まわりが大きくなりすぎる
窒素が効きすぎると草勢が強まり、茎が太くなります。生長点まわりも大きくなり、後ほど紹介する福井県の指標でいえば、黄色部径や茎の太さが大きい状態です。
一見すると元気な株に見えるため、問題に気づきにくいのがこの状態です。
福井県の資料では、生長点付近の大きさや花房の下の茎の太さが大きい状態で推移しても、上物収量は高くならなかったとされています。株が大きいことと、よい果実がたくさん取れることは、同じではありません。
尻腐れ果が増えやすくなる
草勢が強すぎるときに気をつけたいのが、尻腐れ果です。
熊本県農業研究センターの研究成果では、夏秋雨よけ栽培のトマトで、生育が急に進んで茎葉が茂ると、株の中のカルシウム濃度が下がり、生長の盛んな果実や葉先から欠乏症が出て、尻腐れ果になるとされています。
同じ資料のデータでは、生育が旺盛な株は中庸な株に比べてカルシウムの吸収量そのものは多いのに、葉の中のカルシウム濃度は低く、第5段果房までの尻腐れ果の発生率は27.5パーセントでした。中庸な株では0.1パーセントです。
吸っている量が多くても、それ以上の速さで株が大きくなれば、果実まで回りきらないということです。

あわせてこの資料では、窒素や加里の過剰施用、土壌の乾燥なども尻腐れの原因になると注意されています。
島根県の生理障害の事例でも、ミニトマトの夏秋栽培で、草勢の強い株ほど生長点付近の葉が焼けたように枯れる症状が多く、カルシウムの吸収や分配の不良によるものと考えられています。この事例では、追肥のタイミングを見直し、基肥の窒素量を適正にして、緩効性肥料に切り替える対応がとられました。
尻腐れが増えたとき、カルシウムを足すことだけを考えがちですが、窒素の効かせすぎで株が急に大きくなっていないかも、あわせて見ておきたいところです。
肥料不足(草勢が弱い)のサイン
茎が細く、生長点まわりが小さくなる
反対に、肥料が不足すると草勢が弱まり、茎が細く、生長点まわりも小さくなっていきます。
ただし、茎は段が上がるにつれて自然に細くなっていきます。後ほど紹介する福井県の目安でも、上の段ほど目安の数字は小さくなっています。細くなったかどうかは、「同じ段の頃と比べてどうか」で見る必要があります。

下葉の黄化だけで判断しない
一般に、窒素が不足すると下の葉から色が抜けていくといわれます。
ただ、葉の黄化は肥料不足だけで起きるものではありません。
熊本県農業研究センターの研究成果では、トマト黄化病(タバココナジラミが媒介するウイルス病)の症状は葉脈の間が黄化するもので、老化や生理障害による症状と酷似し、見た目では識別できないとされています。資料では、黄化の出る時期や位置が株ごとに違うなど、老化や生理障害以外の原因が疑われる場合は、普及指導機関を通じて診断を依頼するよう示されています。
下葉が黄色いから追肥、と決める前に、黄化の出方が株や場所によってばらばらでないかを見ておくと、判断を誤りにくくなります。
数字で見る、草勢の目安
感覚で見ている草勢を、数字で確かめる方法があります。各県の資料が、いくつかの目安を示しています。

福井県:生長点付近の「黄色部径」と花房の下の茎の太さ
福井県農業試験場は、各花房が1輪開花したときの次の2つが、その時期の生育や収量と関係していて、生育診断の指標として有効だとしています。
- 黄色部径:開花花房の上で左右に広がる葉の、葉緑素の少ない部分の幅
- 花房下茎短径:開花花房の付け根と、そのすぐ下の葉との中間の茎の太さ(短い方の径)
そのうえで、半促成栽培では、次の範囲を確保したときに上物収量が高くなる傾向があり、この範囲にあるときの追肥などの管理は通常どおりでよいとされています。
- 3〜4段花房の開花期:黄色部径25〜30センチ、茎短径10〜12ミリ
- 6段花房の開花期:黄色部径20センチ前後、茎短径7〜9ミリ
- 9段花房の開花期:黄色部径10センチ前後、茎短径6ミリ程度
この数字は「ハウス桃太郎」を使った試験によるものです。測るときは、圃場の中から1輪開花の株を数株選んで測るよう示されています。
岩手県:開花花房の下の茎周りと、開花花房の高さ
岩手県の環境制御技術の手引きでは、次の2つが目安として示されています。
- 開花花房の下の茎周り:草勢の強弱の指標で、30ミリ程度が目標
- 開花花房の高さ(生長点から開花花房までの長さ):栄養成長と生殖成長のバランスの指標で、15センチ程度が目標

熊本県:測り方をそろえる
数字で見るときに大切なのが、測り方です。
熊本県農業研究センターの研究成果では、1週間あたりの茎の伸長量と茎径は測る人によるばらつきが小さく、情報の共有に向いているとされています。一方で、開花花房の高さはばらつきが大きく、測る人の間での共有には向かないとされています。
茎径は、生長点から12センチ、15センチ、18センチのいずれかの位置で、測る位置を統一すればばらつきが小さくなるとされています。
これらの数字は、品種や作型、地域によって変わります。大切なのは、他の県の数字をそのまま当てはめることではなく、自分の圃場で同じ位置を同じ方法で測り続け、変化を見ることです。毎週同じ株を測って記録しておけば、「先週より細くなった」という変化が、感覚ではなく数字でつかめます。

肥料以外でも、同じ姿になる
ここが、追肥の前にいちばん確かめておきたいところです。
茎が細くなった、株の勢いが落ちたという変化は、肥料の不足だけで起きるわけではありません。
岩手県の資料では、草勢は平均気温の影響を強く受け、平均気温が上がれば茎が細く(草勢が弱く)なり、下がれば茎が太く(草勢が強く)なるとされています。
同じ資料の表では、肥料のほかに、次のような管理も草勢に影響するとされています。
- 草勢を強める(茎を太くする)方向:平均気温を下げる(特に夜温を低く)、湿度を上げる、培地の水分を上げる、摘果をして着果を少なくする、摘葉の頻度と枚数を控える
- 草勢を弱める(茎を細くする)方向:平均気温を上げる(特に夜温を高く)、湿度を下げる、培地の水分を下げる、摘果を控えて着果を多くする、摘葉の頻度と枚数を増やす

また、栄養成長と生殖成長のバランスは、昼と夜の温度差の影響を強く受け、温度差が大きければ生殖成長に、小さければ栄養成長に傾くとされています。
つまり、冬のハウスで夜温を高めに管理していたり、果実をたくさん着けていたりすれば、肥料が足りていても茎は細くなります。その状態で追肥を増やしても、原因が温度や着果負担にあれば、思ったようには戻りません。
茎が細くなったときは、肥料を足す前に、温度の管理、かん水、着果の数を先に振り返っておきたいところです。
サインが出たときの調整
以上を踏まえて、草勢が強すぎるとき、弱すぎるときの調整の方向を整理します。
草勢が強すぎる(肥料過多寄り)とき
- 追肥を控える、または間隔をあける
- 施肥の中身を、窒素を減らしてカリ寄りにする(岩手県の資料の「草勢を弱める」方向)
- 夜温を上げる、摘果を控えて着果を多めに残すなど、温度と着果負担でも調整する
- 尻腐れが出ている場合は、土壌の乾燥がないかも確認する
熊本県の資料では、尻腐れの予防策として、生育が急に進む時期の石灰資材の葉面散布や土壌かん注が挙げられています。カルシウム肥料の使い方は、過去の記事「カルシウム肥料の使い方完全ガイド」でも詳しく整理しています。
草勢が弱い(肥料不足寄り)とき
- 温度、かん水、着果の数に原因がないかを先に確認する
- そのうえで、追肥を行う、または施肥の中身を窒素寄りにする(岩手県の資料の「草勢を強める」方向)
- 夜温を下げる、摘果で着果負担を減らすなど、温度と着果負担でも調整する
どの調整も、岩手県の資料にあるとおり、トマトの生育に適した範囲の中で行うことが前提です。一度に大きく変えず、測って、少し動かして、また測る、の繰り返しで合わせていくのが安全です。

まとめ。追肥を足す前に見る順番
- 毎週、同じ株の同じ位置で、茎の太さと伸び方を測る
- 生長点まわりの大きさと、開花花房の位置を見る
- 測った数字を、同じ段の頃の目安や自分の過去の記録と比べる
- 細くなっていたら、温度・かん水・着果の数に原因がないかを先に確認する
- 葉の黄化は、出方が株や場所でばらばらなら、病気の可能性も考えて相談する
- 草勢が強すぎれば追肥を控え、弱ければ追肥する。施肥の中身(窒素とカリ)も合わせて見直す
- 尻腐れが増えたら、カルシウムだけでなく、窒素の効かせすぎと土の乾燥も疑う

肥料が多いか少ないかは、葉の色だけでは決められません。株の姿は、肥料と温度と水と果実の付き方が重なった結果です。
だからこそ、追肥を足す前に一度株を測り、肥料以外の原因を消していく順番が、結果として肥料のムダも減らします。
今回の記事が、冬春どりのトマトの追肥を考える際の参考になれば幸いです。
